遠投性能に最適化・徹底チューニングされた「ハイパーロングキャスト」のベイトリール。
その最新モデルとして2021年に発売された「スティーズ A TW HLC」の実釣インプレをレビューします!
ジリオン HLC、タトゥーラ HLCなど、重量級ルアーをロングキャストする用途でラインナップされてきたHLCリール機。大遠投に特化したHLCシリーズに、いよいよフラッグシップモデル「スティーズ」が登場しました。
HLCモデルは、岸釣りでヘビキャロを大遠投する村上晴彦さんの代名詞とも言えるベイトリール。
圧倒的な飛距離を叩き出しつつも、かつてはピーキーで扱いにくい上級者向けモデルとも言われていましたが、最近のHLC機はマイルドで使いやすくなったという評価です。
ですが、マイルドで使いやすいリールである事がHLCの本領ではありません。
「スティーズATW HLC」は、どこまでも伸びるロングキャスト性能。
その目的のために不純物を削ぎ落とし、高い完成度で凝縮されたベイトリールだと感じました。
スティーズ A TW HLC | 特徴と魅力
公式サイト品名 | 巻き取り長 | ギア比 | 自重 | 最大ドラグ力 | 最大巻糸量 ナイロン | ハンドル長 | ベアリング | 定価(¥) |
6.3R | 71cm | 6.3 | 190g | 6kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
6.3L | 71cm | 6.3 | 190g | 6kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
7.1R | 80cm | 7.1 | 190g | 6kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
7.1L | 80cm | 7.1 | 190g | 6kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
8.1R | 91cm | 8.1 | 190g | 5.5kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
8.1L | 91cm | 8.1 | 190g | 5.5kg | 16lb-100m 20lb-80m | 90mm | 8/1 | 50300 |
■ハンドルノブS(交換可能)
■ソルト対応
※2022年新製品・追加モデルとして、「8.1R」「8.1L」 が2021年12月に発売されました。
「スティーズ A TW HLC」のスペック・性能は上記の通り。
また、次のような特筆すべき特徴・最新技術テクノロジーが採用されています。
高剛性なコンパクトボディに大径スプールを収納
▲バーサタイルリールのフラッグシップ・スティーズリミテッドSVTW(右)とも同じサイズ感
「スティーズA HLC」は、バーサタイルモデルとしてパーミングしやすいロープロファイルな形状でありつつも、強靭な剛性感で評価が高い「スティーズ A TW」のボディ筐体をベースにしています。
握った手応えがとてもコンパクトに感じるボディに、遠投性能に長けた36mm径の大型スプールを格納しているから驚きですね。
大径スプールは、「飛距離を出しやすい」「ギア比に対する巻き上げ速度が速い」といったメリットがありますが、従来のモデルはどうしてもボディが大きくなる傾向がありました。スティーズHLCは、握り込みやすくロープロファイルなサイズ感で、36mm径スプールを搭載する稀有なリールと言えます。
アルミ合金のボディは重量が増しますが、それでも遠距離向けベイトリールとして自重190gは十分軽量。コンパクト感のあるボディでも、重量級ルアーを思いっきりフルキャストできる屈強さとバランスが取れた設計だと感じました。
ハイパードライブデザイン(HYPERDRIVE DESIGN)
「スティーズ A TW HLC」は、ダイワ最新テクノロジー「ハイパードライブデザイン」採用モデル。「ハイパードライブデジギア」「ハイパーダブルサポート」「ハイパーアームドハウジング」「ハイパークラッチ」といった4つの技術で、リール本来の高い初期性能が長期間持続する事を目標としています。
特に、新設計のハイパードライブデジギアのよる巻き心地は圧巻。
実際にルアーを巻いてみて、その心地よいリーリングの進化をハッキリと感じました。
ハイパードライブデジギア
▲従来のギア(上)とハイパードライブデジギア(下)のイメージ 出典:DAIWA
ギアを小型化する事なく、耐久性を維持したままかみ合わせ率をアップ。強く滑らかな回転力を実現。
従来は山型だったギアを、新設計のバレット型形状にすることで、ギア同士の接触面を増やしています。
ハイパーダブルサポート
巻きの強さ・軽さ・滑らかさの追求を実現する駆動サポートシステム。
ピニオンギアを2つのボールベアリングで支持する機構です。
ハイパーアームドハウジング(AL)
リール内部を高精度かつ高剛性で支えるボディの筐体設計システム。
適材適所の素材で構成され、剛性に重要な骨組み部分はメタル素材です。
機種の用途や特性によってメタル素材が異なり、スティーズA HLCはアルミ合金を採用。
ハイパークラッチ
ソルトシーンでもトラブルが少なく、ON/OFFのメリハリが効いた耐久性に優れたクラッチシステム。
36mm径 マグフォースZ ブースト (MAGFORCE-Z BOOST)
スティーズ A TW HLCは、最新かつオンリーワンにチューニングされたブレーキシステムを採用しています。
スプールに装着された金属パーツ(インダクトローター)が遠心力に応じて駆動し、サイドプレートの磁界内でブレーキ段階をリニアに可変させるマグネットブレーキシステムが従来の「マグフォースZ」。
スプール回転に応じてブレーキをリニアに変化させるので、マグネットタイプとしては飛距離を出しやすい特性ですね。
その遠投性能に長けた「マグフォースZ」がさらに進化し、2ステップのブレーキ段階を備えた「ブーストシステム」を搭載したスプールが「マグフォースZ ブースト」です。
フルキャスト時の初動は、2段階のブレーキでしっかりとバックラッシュを回避。
その後、瞬時に1ステップのブレーキが収束する事で、キャスト序盤から過度なブレーキを抑え、中盤~後半にかけての最大飛距離アップに貢献します。
その他の採用技術・テクノロジー
その他にも、スティーズA TW HLCにはダイワ独自の様々な技術が採用されています。
TWS (T-ウイングシステム)
スプールに近いラインガイドの抵抗を削減し、スムーズなライン放出を実現。
キャスティング時のライン抜けが良く、飛距離やコントロール性が快適に。
バックラッシュなどのトラブルも軽減され、ルアーをフォールさせる際も滑らかな放出が期待できます。
マグシールド (MAGSEALED)
磁性をもつオイルで防壁したボールベアリングをピニオンギヤのー部に採用。
ソルトでの使用に対する防水性・耐久性・回転性能がアップしています。
ATD
滑り出しがスムーズで、ラインブレイクしにくいドラグ機構。
魚の引きに滑らかに追従しながら効き続け、違和感を与えず暴れさせにくい特性。
スプールの互換性
スティーズ A TW HLC のスプールは36mm径。
従来のジリオン HLCなど、他の36㎜径スプールと互換性があると考えていた方も多いではないでしょうか。
しかし、スティーズHLCは34mm径スプールのスティーズと同一ボディの為、ジリオンHLCと比較した場合、スプール幅が狭くなります。なので、他の36㎜径スプールと互換性がありません。
SLPワークスの互換表にも、現時点でスティーズ A TW HLC に適合するスプールは無いようです。
互換性が無い分、スティーズHLCのスプールは36mm径としては横幅が狭く、実質的に従来よりナロー化されているので、回転の立ち上がりの良さは期待できますね。
ハイパーロングキャストだけでなく、様々な用途に応じたスプールが今後別売されれば、より幅広い使い方ができそうです。
外観とデザイン、使用感
スティーズ A TW HLCの外見やデザイン、使用感について紹介します。
外観
「スティーズA TW HLC」は、遠投に向いた36mm径スプールを、従来34mm径スプールを搭載していたバーサタイルリールと同型ボディに収めています。
フラッグシップモデル「スティーズ」と同型の外観は、スタイリッシュでシンプルかつ華麗。
特に、大型なスプールを備えているとは思えない程、ロープロファイルなボディは、非常にコンパクトに握り込めます。まるでスプールを直接パーミングしているような一体感で、ロッドを握り込む手がリールの存在を感じつつも、余分な突起物によるストレスを一切感じさせません。
リール上部のサムレフト周りと、握り込む手の側にあるサイドプレートが、適度な平面と曲線で秀逸。ホールド感を高める平面部分と、極端すぎない滑らかな曲線の連続が、ナチュラルで心地よい手触りを感じさせてくれます。
リール上部が全体的に面主体ながら、滑らかな連続的なカーブの末端にあるリール後部を低いポジションで構築。手元に近い位置にあるクラッチ操作が非常に快適で、指に馴染む操作性がキャスティング動作の一体感を高めます。
スティーズのボディはバーサタイルリールとしては標準的なサイズ。
決して小型ボディではありませんが、手に馴染むロープロファイルを追求し続けた道具としての外観が、非常にコンパクトな使用感をもたらしてくれます。
これ程持ちやすいリールでありながら、ガッシリと頑強で剛性に優れた特性は最大のメリット。実際に使っていて、フラッグシップモデルと同等形状である事を実感する最高の使い心地です。
シマノ 19アンタレスや20メタニウム、ダイワ 21ジリオンSVTWなど、現行のバス用ベイトリールの中では、同サイズ感の中で最も使い心地が良いリールだと感じました。
デザイン
21スティーズA TW HLCのボディは17スティーズA TWと同形状。
両機の違いとして、17スティーズAがマットで上品な塗装であったのに対し、21スティーズHLCはやや光沢のある金属質なデザインです。
若干、青みがかかり、深い紫のような色合いが薄っすらと混じりながら、鋼のような黒鉄色に鈍い光が差すイメージ。
マットな17スティーズAの方が「手に馴染みやすい」「上品でクセが無い」と思っていましたが、21スティーズHLCの仕上がりも非常に高品質で、HLCリール機という特別感を感じさせてくれます。
ロングキャストにチューニングされた特別仕様機として、長く楽しめそうな奥の深いデザインではないでしょうか。
所有感を最高に感じさせてくれる他のフラッグシップモデルとはまた少し異なり、HLCという歴史の趣を感じさせてくれる仕上がりです。
巻き心地、巻き感、リーリング
スティーズHLCは、剛性感のあるボディで巻き心地がバツグンだったスティーズAのボディを踏襲。さらに新設計のギアなどで、リーリングが大きくパワーアップしています。
巻き心地
スティーズ A TW HLC の巻き心地は極上の仕上がり。
非常に滑らかで、力強い巻きパワーを発揮してくれます。
ボディベースとなった17スティーズA TWも剛性感が高いボディで、しっかりとしたリーリングを実感しましたが、それを上回る巻き心地だと感じました。
これは、新設計のギアシステムによる恩恵がかなり大きいと言えそうです。
巻き上げパワー
スティーズA TW HLCのリーリングは快適そのもので、特に巻き上げパワーに関しては最高の満足度。引き抵抗の強いルアーや大型ルアーを、安定して巻き続ける事ができます。
リーリングのパワーや安定性は、「ハイパードライブデザイン」「ハイパードライブデジギア」といった、スティーズHLC同様の最新テクノロジーを採用するスティーズリミテッドSVTWや21ジリオンSVTWでも感じていましたが、さらに快適な印象。
マグネシウム素材のスティーズリミテッドSVTWと異なり、アルミ合金である事。そして、同じアルミボディの21ジリオンSVTWと比較すると、かなり全体がコンパクトに凝縮されている事で、より剛性感を実感しやすくなったのかもしれません。
ただ、一切のノイズを感じないようなシルキーさで言えば、丸型リールに分があります。
また、4m超の深度を先行するようなディープクランクや、ビッグクランク等の引き抵抗が強いルアーを巻き倒す場合も、(スティーズHLCでも十分快適ですが)ギア比のより低い大型リールの方がより安定していると感じました。
巻き感度
最近のベイトリールは、リーリング時の感度についても言及されるようになりました。
最新モデル「スティーズ A TW HLC」は、その巻き感度も良好。
ラインから伝わる細かな振動が、コンパクトに凝縮されたボディの中で適度に反響し、手元に情報伝達されます。
スプールに巻き取るラインだけでなく、ロッドのガイドやブランクスが感じ取る感度も、リールシートを通じて伝達されやすい構造になっていると感じました。
これは、肉厚がある精密な金属ボディの丸型リールが、微妙な違和感で感じ取る感度とはまた異なり、ギアの回転音までが反響するようなボディ形状が、感度をメガホン効果で増幅してくれているようなイメージ。
ただ巻き感度については、同じボディ形状でより軽量なスティーズリミテッドSVTWや16スティーズSVTWの方が繊細です。
それでも、剛性感のあるアルミボディ機としては、スティーズA TW HLCの巻き感度はかなり優秀で、ロングディスタンスでのワーミングでも活躍してくれそうな特性だと感じました。
不満点・マイナスポイント
あえて不満点を挙げると、ギア比のラインナップかもしれません。
大型の36㎜径スプールを搭載しているスティーズ A TW HLC は、34mm径スプールを搭載するバーサタイルベイトリールより、同じギア比での巻取り長さ、つまり巻き上げ速度がアップしています。
その為、ノーマルギアであっても、ハンドル1回転あたりの巻き取り長が71cmと比較的速め。
巻取り超が80cmとなるハイギアモデルでも、ギア比7.1と十分なパワーとトルクを期待できる設計です。
ただ、ソルトでの使用を想定するのであれば、より速い巻き取り長のギア比がラインナップされていて欲しい所。また、大径のスプールを活かして、低いギア比でも巻取り長を確保し、引き抵抗の強い巻物でパワフルに使えるモデルも期待してしまいますね。
ですが、規模の大きなフィールドで重量級ルアーを大遠投する..という主目的用途においては、パワーと速度のバランスが取れたラインナップなのかもしれません。
ギア比のラインナップにおいても、汎用性を排し、用途に特化したチューンドモデルである事を感じさせます。
完成されたピーキー | 突き抜けるロングキャスト性能
「スティーズ A TW HLC」の醍醐味は、ハイパーロングキャストの名を掲げたその遠投性能。
実際に使ってみて、用途に応じた使い方であれば圧倒的な飛距離を体感できました。
1/2oz(14g)~1oz(28g)のバイブレーションやメタルバイブ、3/4oz(21g)~1oz(28g)のヘビーキャロライナが、今まで触れた事が無いエリアまでぶっ飛んでいきます。
岸釣り・オカッパリにおいて、遠投が効く重量級ルアーをロングキャストするという用途では、スティーズHLCの圧倒的な性能を実感!
ただ、目的・用途に最適化され、徹底的にチューニングが施されたスティーズHLCは、「どんなルアーを誰もが使いやすいリール」では無いようです。
実際に使ってみて、感じた事を順に紹介していきます。
キャストフィール
スティーズA HLCは、その飛距離も圧倒的ながら、投げ心地・キャストフィールがバツグンに快適!
空間を突き抜ける弾丸のようにルアーが吹っ飛びます。
遠投に向いた遠心ブレーキのベイトリールの中には、「無重力のようなキャストフィール」と称されるモデルが存在していました。
「スティーズ A TW HLC」を最初に投げた時、そうした無重力に近いフィーリングを体感。
ただ微妙に異なるのは、静寂な無空間を飛び交うような感覚ではなく、重力やブレーキに縛られず、確実なコントロールで飛び抜けていくような力を感じるフィーリングです。
無重力を抵抗を感じること無く飛ぶというより、フリーな空間にルアーを押し出しつづけているようなイメージ。
「スティーズ A TW HLC」はピーキーなのか?
HLCに限らず、遠投に特化したベイトリールは、「ピーキーだけど、使いこなせば飛びが凄い」と評されます。
「ピーキー」という言葉は、もともと自動車やバイクのエンジン用語で、非常にトルクが高いが、それを発生させる回転域が狭い事を指すようですね。
スティーズA TW HLCも、ハイパーロングキャストに特化したピーキーさを持ち合わせています。
ただ、目的に応じた使い方であれば、驚くほどカンタンに性能を発揮。
つまり、用途の幅は狭いけれど、ドンピシャな使い方であれば、誰でも比較的容易にその恩恵を受ける事ができます。
具体的には、ヘビキャロやバイブレーション、メタルバイブをフルキャストする用途であれば、比較的トラブルが少なく、容易に飛距離を叩き出す事が可能。
勿論、サミングなどを駆使する上級者であれば、よりタイトなブレーキセッティングでさらなる飛距離アップを望めるかもしれません。
ですが、ドンピシャな用途において、誰もが手軽に圧倒的な飛距離を得られる特性には驚きました。これこそが、最近のHLCがマイルドで使いやすくなったと称される要因かもしれませんね。
しかし、飛行姿勢の良い重量級ルアーを遠投する用途以外では、途端にリールの扱い難さが現れてきます。
正確には、制御不能な扱い難さではなく、キャスト状況に応じたサミングをしなければ、必ずラインが浮き上がる..という、ベイトリール本来の特性が極端に表面化。
最近のベイトリールは劇的にトラブルレス性能がアップしたので、ラインがバンバン浮き上がるスティーズHLCにはかなり戸惑いました。
どういった用途で扱い難くなるのか、次の項で詳しく紹介します。
スティーズ A TW HLC に不向きな用途
スティーズ HLCは大径スプールを搭載している事もあり、ネットの情報などで14g以上の重さがあるルアーが推奨されています。
ですが、重量級ルアーであれば快適...という訳でもありません。
例えば、1oz(28oz)以上の重量でも、空気抵抗が高いハネモノ(ビッグクローラーベイト)やスピナーベイトでは、キャスト序盤からかなりラインが浮きます。
確かにハネモノやスピナベとは思えない程の飛距離が出ますが、自分が持つサミング技術ではラインの浮き上がりを制御しきれませんでした。
1つ興味深いのは、ラインが滅茶苦茶に浮かび上がっても、絡んで修復不能になるようなバックラッシュまでは発生しにくいと感じた点。トラブルレスではないものの、ピーキーな領域であっても絶妙なバランス性能に仕上がっているのかもしれません。
また、ピッチングや近距離へのショートキャストでもラインがかなり浮きます。
常に指でスプール回転をコントロールする位でないと、快適なキャストを繰り返せません。
HLCリールの特徴として、キチンとロッドに重みを乗せてフルキャストしないと、スプールに備わるインダクトローターが可変しきれずに、十分なブレーキ力を得られない..と言われています。
実際、ピッチングやショートキャスト、軽量ルアーに対してはそれが当てはまりそうですね。
ただ、重量級ルアーでフルキャストを決めても、空気抵抗が大きなハネモノやスピナーベイトではかなりブレーキ不足を感じます。
ある程度重心バランスがよいプラグやスイムジグ等は比較的投げやすい傾向に感じましたが、ヘビキャロやバイブレーションほどの安定感はありません。
この現象は、ブレーキセッティングを最大にする、ラインを巻く量を減らす(ブレーキ力が上がる)、といった定番の対策を行っても大きく改善はされませんでした。
自分が使ってみた限り、スティーズ A TW HLCは、キャスト初動の一瞬だけブレーキが効き、そこから一気にOFFになる印象。
その一瞬を過ぎると、キャスト序盤からすでにブレーキが抜けていて、中盤から後半にかけてノーブレーキに近いフィーリングだと感じました。
遠心力によってインダクトローターが可変する既存のマグフォースZ等と比べても、スティーズHLCのノーブレーキ感はハッキリと感じ取れます。
磁界の中に差し込むインダクトローターが可変式であっても、マグネットブレーキは最低限の制御が常に効いている印象がありましたが、スティーズ A TW HLCはそれが極限まで弱められているようですね。
つまり、キャスト時に必要な制御はしっかり確保しつつも、かなり早いタイミングでブレーキが失われる特性。キャスト中の横風や、空気抵抗の大きなルアーでは、サミング無しに投げられない調整になっていると思います。
これこそが、用途に応じた使い方において、圧倒的なキャストフィールをもたらしていると言えそうです。
この特性は、スティーズ HLCのスプールを見るとより明確なのかもしれません。
スプール構造については、次の項目で紹介します。
マグフォースZ ブースト(MAGFORCE-Z BOOST) スプール
▲スティーズリミテッドSVTW(上)とスティーズHLCのスプール(下) 金と紫の金属パーツがそれぞれのインダクトローター
スティーズHLCのスプールは、インダクトローターの厚みが薄く、かなり引っ込んでいるように見えます。
同じボディの17スティーズATWや、SVブーストスプールを採用するスティーズリミテッドと比較しても、インダクトローターがかなり薄い印象。
インダクトローターは、サイドプレートの磁界部分で回転する事でブレーキを発生させています。
なので、遠心力が弱まって、インダクトローターが最小に収まる状況では、サイドプレート内への挿入が浅く、キャスト中盤から後半のブレーキがほぼ効いていないと推測。
(通常のマグフォースZなら、遠心力が弱まっても、もう少しブレーキが効いていると感じています)
スティーズHLCは36mm径スプールで、他のスティーズは34㎜径と一概に比べられませんが、インダクトローターの直径は同じ位。
サイドプレート側のマグネット構造に大きな違いが無いとすれば、インダクトローターの挿入が浅いスティーズHLCの方が、ルアーの飛行姿勢が崩れやすいキャスト中盤以降においてブレーキが不足するのは納得です。
(ボディ形状が異なるリールの場合、サイドプレート自体が別物となので、それに合わせたインダクトローターの厚みや幅は大きく異なります)
こうした構造や、実際に使ってみた印象から、「スティーズ A TW HLC」は遠心ブレーキに近い特性なのではないでしょうか。
つまり、キャスト中盤から後半にかけて、ブレーキが限りなくゼロに近づくほど抜けが良く、飛距離を大きく伸ばしやすい特性。
その分、失速しやすいルアーや横風などに流されやすい場合、ラインが浮くのでサミング技術が必須となります。
最近は、遠心ブレーキモデルのリールでもキャスト序盤のブレーキ力がしっかりしていて、トラブルが比較的少なくなっています。
スティーズA TW HLCは、むしろかつて存在していた初期の遠心ブレーキに近い特性で、本当の意味での遠投特化な「狙い定めたピーキー」を完全再現していると言えるかもしれません。
『MAGFORCE-Zの遠投性能を極限まで引き出したBOOST SYSTEM』
MAG-ZブーストはMAGFORCE-Zの遠投性能を極限まで引き出した飛距離重視のセッティング。MAGFORCE-Zは遠心力でインダクトローターを作動させる特性から軽量級ルアーには不向き。一方で中・重量級ルアーの遠投には最適で、入力した分だけ飛距離が伸びる。そこにBOOST革命。バックラッシュゾーンを回避した後、瞬時に1段階戻ることでキャスト中盤~着水間際まで伸びやかな弾道で最大飛距離を実現させた。
出典:DAIWA
ダイワのサイトには、マグフォースZブーストについて上記の記載があります。
一見、軽量ルアーには不向きだった特性がBOOST革命で改善されたようにも読み解けますが、自分が使ってみた限り、汎用性よりも更に遠投性能へと特化させた印象。
遠心力という1軸でコントロールしていたインダクトローターを、ブーストシステムの2ステップにする事で、更に伸びがある弾道を実現させたのではないでしょうか。
ただ軽量ルアーについても、空気抵抗が少なく飛行姿勢の安定したルアーであれば比較的良く飛ぶと思います。また、1/2oz(14g)以上の重量があれば、ある程度投げにくいルアーも安定感が得られる印象。
スティーズHLCの扱い難さは、キャスト中盤から後半にブレーキが抜け切ってしまう事なので、使い手がしっかりと制御するか、(そうした制御をあまり必要としない)飛びが良いルアーであれば何の問題もなく、むしろ快適なキャストフィールを楽しめます。
人間が反応しにくいキャスト初動の一瞬だけをキッチリと抑え、残りのキャスティングを限りなくフリーに、使い手のマニュアル操作に委ねた最高のチューニングマシンだと言えますね。
あと自分はあまり気にならないのですが、ブースト機構のあるスプールは、キャスト中にカチッと異音が聞こえる場合があります。
ブレーキを制御するインダクトローターを、従来より素早く戻すことで遠投性能を確保しているので、従来モデルより音が聞こえやすいようですね。
しかも、2段階でブレーキを制御するブーストスプールは、キャスティング状況によって最大2回の音が発生する構造。なので実釣性能に問題はなく、むしろ「カチッ」という音が心地よい遠投性能の証です。
バーサタイルに扱いやすく、スティーズ A TW HLC を使う
今まで使ってみた限り、スプール回転が落ちるタイミングでの最小ブレーキが弱すぎる事、ノーブレーキに近いフィーリングである事こそが、スティーズA TW HLCの最大飛距離を叩き出す要因だと感じています。
その為、失速しやすいルアーや、スプールが低回転となるピッチングやショートキャスト、風のある状況などにおいて、適切なサミングが必要なマニュアル操作感の強い仕上がり。
ラインが浮きやすい場合、糸巻量を減らしてブレーキ力を高めたり、ブレーキを強めに設定する事が推奨されます。
ところがスティーズHLCの場合、そもそもスプール回転低下時のブレーキが抜けているので、こうした対応では不十分だと感じました。
投げやすいルアーを大遠投する場合は問題ありませんが、幅広い状況で使う場合、私自身はメカニカルブレーキ(ゼロアジャスター)を少し締めています。
最新のリールはスプールがガタつかない程度のゼロ設定が推奨され、スティーズHLCも同様に、その設定が最も高いパフォーマンスを発揮。
ただ、空気抵抗の強いルアーや強風下でキャスティングする場合など、さまざまなシチュエーションをバーサタイルに使うなら、最低限の常時ブレーキが必要..というのが自分的な結論。
毎回サミングをキッチリできていれば不要なのですが、安定したブレーキ設定にする事で、1日の釣りにおけるミスキャスト等を心配するストレスも軽減されますね。
スティーズATW HLCのゼロアジャスターには8段階の切れ目が付いていますが、スプールのガタゼロの状態から、1~2目盛りほどスプールを締めています。
スティーズHLCは基本的なキャスティング性能が高く、ある程度ゼロアジャスターを締め付けても、バーサタイルベイトリールとして十分実用的な飛距離が出せました。10g前後の比較的軽量なルアーでも、レスポンスがよい感じです。
※高性能な昨今のスプールは、メカニカルブレーキを締め付けすぎるとキャスティング時に異音が発生。回転性能に対する負担も大きいと推測されるので、ゼロアジャスターの締め付けは自己責任でお願いします。
(クラッチを切った時にスムーズにルアーが落ちつつ、キャスティング時に異音がしない程度が個人的な目安)
シマノ 21 アンタレスDC との比較
大遠投に向いたベイトリールと言えば、スティーズ A TW HLC と同様に2021年に発売された「シマノ 21 アンタレス DC」が存在します。
スティーズ A TW HLC と 21 アンタレス DC を自分なりに比較してみました。
21アンタレスDCは、スプール回転で自家発電させた電力によってデジタルにブレーキを制御。
2021年モデルはCPUが高速化された事もあり、非常に細やかなブレーキをオートマチックに制御しています。
両機を実際に投げ比べした所、同じセッティングではどちらも圧倒的な飛距離でした。
14lbフロロラインを110m巻いて、MHパワーのロッドでヘビキャロ(1oz)をキャストした所、スティーズHLCで約79m、21アンタレスDCで約80mが平均。
自分はキャストに長けていないので、もっと技術のある人が使った場合や、Hパワーのロングロッドを使うなどバランスを見直す事で、どちらも更に飛びそうです。
ヘビキャロは、21アンタレスDCが最弱のブレーキ設定で投げやすかったのに対し、スティーズHLCはブレーキダイヤル5~6あたり。マニュアル操作に長けた方であれば、スティーズ A TW HLCは、かなり上限が広がりそうな可能性を感じさせてくれます。
自分の腕に合わせた無理が無いセッティングでは、若干21アンタレスDCの方が飛距離が出ました。ですが、突き抜けようなキャストフィールの心地よさはスティーズHLCの方が快適。
これは、スティーズHLCの方が優れているという意味ではありません。
21アンタレスDCは、最弱ブレーキのXモードでも、非常に細やかなに微妙なブレーキをかけてくれる印象です。対するスティーズ A TW HLCは、本当に何も遮る物が無いようなキャストフィールで、実際の飛距離以上の開放的な爽快感が楽しいイメージ。
つまり、それぞれの個性の問題ですね。
21 アンタレス DC のメリット
▲キャスティングの苦手な自分でも、楽にヘビキャロで80m程を飛ばせる21アンタレスDC。タックルバランスを見直し、キャスティングが上手い人であれば、更に飛びそうですね。
オートマチックでブレーキを制御できる「21アンタレスDC」は、大遠投以外の用途でもバックラッシュしにくく、非常に使いやすい特性。
どんなルアーでも、あらゆる状況や投げ方において、万人が快適な性能を体感できます。
ピッチングやショートキャストも快適。
遠投性能に特化した..というより、あらゆるキャスト性能を追求した結果、圧倒的な最大飛距離を実現したのが「21 アンタレス DC」と言えそうですね。
スティーズ A TW HLC のメリット
▲ヘビキャロであれば、MHパワーのロッドで危なげなく79m程を飛ばせたスティーズHLC。ブレーキセッティングが6なので、Hパワーロッドでよりタイトなセッティングができれば、可能性は更に広がりそうです。
ハイパーロングキャストに最適化された「スティーズ A TW HLC」は、キャスティングフォームやサミングなど、ある程度の技術を求められるベイトリールです。
特に、飛距離の出るルアーを大遠投する目的以外では、最近のベイトリールとしてやや使いにくい部類と言えますね。その分、キャスティング技術に長けた人であれば、マニュアル操作による果てしない性能を引き出せる可能性を感じます。
慣れない人であっても、ヘビキャロやバイブレーション、メタルバイブのフルキャスト用途なら、比較的カンタンにロングキャスト可能。
メカニカルブレーキを少し締め気味にする等、調整次第では、他のルアーも十分トラブルレスに扱えます。
また、21アンタレスDCと比較して、圧倒的にロープロファイルで握り込みやすく、自重も軽量(21アンタレスDCは220~225g、スティーズHLCは190g)な点もメリット。
ワーミングでの繊細な操作性も快適で、ますますヘビキャロでの用途に特化していると感じました。
まとめ
「スティーズ A TW HLC」は、ヘビキャロやバイブレーション、メタルバイブ等、飛距離が出やすいルアーを、さらに大遠投する用途に適したベイトリール。
目的に応じた使い方であれば、比較的誰もがカンタンに、圧倒的なハイパーロングキャストを体験できます。
今まで届かなかったエリアを狙えるだけでなく、その快適なキャストフィールはフルキャストを続けるモチベーションにも繋がりますよね。
ただ、遠投に特化したチューニングの為、風などの悪条件、失速しやすいルアー等は不向きです。1/2oz(14g)以上のルアーであれば若干使いやすくなりますが、それでもサミングでキッチリ制御しないと、ラインがかなり浮きやすい傾向。
ピッチングやロールキャスト、近・中距離へのショートキャストの場合も同様です。
こうした使い難さが、最大限の遠投性能を引き出せる特性でもあり、トラブルレスなモデルが多い近年においては珍しい、マニュアル操作を楽しめる仕上がり。
ただ、ゼロアジャスターと呼ばれるメカニカルブレーキを少し締めれば、ベイトリールに不慣れな人でもある程度使いやすくなるので、自分の技術向上と共に、長く使い続けられるモデルと言えるのではないでしょうか。
圧倒的な飛距離を追求する人だけでなく、時間をかけてチューンナップリール機を使いこなしてみたい人、トラブルレスなオートマチックモデルでは少し物足りないと感じている人におすすめなリールです。
スティーズ A TW HLC に合うロッド
ヘビキャロや大型のバイブレーション等、規模の大きなフィールドで大遠投する用途に最適な「スティーズ A TW HLC」には、ロングキャストに長けたロッドがよく合います。
1ozクラスのルアーを振り抜く事を考慮し、Hパワークラスのロングロッドが最適。
最もおすすめは、ダイワの「751HRB-SV AGS19 疾風七伍 AGS」です。
7フィート5インチの長尺にヘビークラスの強靭なバットパワー、高反発な高性能素材を採用した究極の岸釣りロッド。
強めのパワーでありつつも、レギュラーテーパーアクションのデザインがルアーウェイトをロッド全体に伝える繊細さがあり、肉厚なブランクスが圧倒的なフルキャストを実現してくれます。
ブランクス素材がマイルドで、より使いやすいスタンダードモデル「ハートランド 752HRB-21」もおすすめ。
疾風75より手頃な価格で、万人が使いやすい遠投性能に仕上がっています。
重量級ルアーだけでなく、ちょっとした底物やレギュラークラスまでのルアーを視野に入れるなら、8フィートの長さがある「ハートランド 802MHRB-21」もいいですね。
巻物からラバージグまで、幅広いルアーが使いやすく、ロングロッドの利便性を体感しやすい機種に仕上がっています。
また、重量級ルアーの遠投性能は若干控えめになりますが、「741MHRB-SV AGS17 疾風七四 MH AGS」もおすすめ。
ヘビキャロを十分フルキャストできるパワーがあり、レギュラークラス以上のやや軽めなルアーまでバーサタイルに扱いやすいのが魅力です。
同じパワーで用途が似たスタンダードモデルには、センターカット2ピースの「ハートランド 722MHRB-19」もあり、こちらも評価の高いロッドですね。
ハートランドはあまり大量生産されるロッドではないので、店頭やネットで見かける機会が少ないかもしれません。
購入を検討されている方は、ダイワ系列の「キャスティング」がオンラインストアも充実しているのでおすすめです。
小まめに、欲しい番手が入荷されていないかチェックしてみてください。
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