「川スモール」は、日本の川に住むスモールマウスバスの略称。
自分もバスフィッシングの対象魚として川スモールマウスバスを釣っています。
ですが、川スモールマウスバスは、「業界やメディアのタブー」「一部の場所以外では居ない事になっている」といった声も聞かれ、少しデリケートな扱い。
川スモールを釣ることは違法なのでしょうか?
本記事では、スモールマウスに限らず、バスフィッシング全体の大切な問題について考えます。
目次
川スモールマウスバスを釣ることは違法?
結論を先に述べると、川スモールマウスを釣って、キャッチアンドリリース(再放流)することは違法ではありません。
日本では、2005年6月に外来法が施行され、ラージマウスバスやスモールマウスバスなどの指定された特定外来生物を、生きたまま運搬したり、他地域へ放つことが固く禁止されています。
違反した場合、個人なら3年以下の懲役や300万円以下の罰金、法人なら1億円以下の罰金が科される事も。
ですが、指定された魚を釣ること、その場へキャッチアンドリリースすることは禁止されていません。影響範囲の大きな問題なので、環境省のHPでも、あえて「釣りや再放流が禁止ではない」旨が記載されています。
釣り人向けのリーフレット [PDF 1,055KB]も用意されてるので、バス釣りをされる方は是非1度ご確認ください。
リリースが禁止されている場所
前述の通り、釣りやキャッチアンドリリースは法律で禁止されていません。
ですが、法律とは別にリリースが禁止されている地域もあります。この禁止は、ラージマウスバスも例外ではありません。
新潟県のリリース禁止など、禁止の大半は漁場管理に基づく指示で、そこで生計を立てている方の立場で考えれば当然の措置ですよね。
また、滋賀県や佐賀県など、環境保全のために条例を定めている地域もあります。
禁止の指示は、「スモールマウスは禁止」「特定水域はリリース禁止」「リリースは指定水域のみ」など、地域によって条件が異なるので要注意です。
一部の場所以外にスモールマウスバスは居ない?
バスフィッシングを楽しむ人の間では、「日本のスモールマウスバスは、特定の場所以外に居ないことになっている」と言われています。
特定の場所とは、スモールマウスが観光資源として活用されている野尻湖や桧原湖など。
この水域のスモールマウスバスは、釣り大会の対象になったり、メディアでも報道されていたりします。
ただ、恒久的に公認されているわけではなく、観光資源としての側面を考慮し、漁場管理によるリリース禁止が期間限定で解除されている状況です。
数年おきに解除の是非が再検討され、関係各所の尽力によって、それが現在まで継続。
その為、スモールマウスに限らず、ラージマウスを含め、今後万が一にでも漁場にとって不利益と判断される状況になれば、この限りではありません。
これは「スモールマウスが悪だから当地域でも禁止」になるというより、「当地域に対象魚がいる事で不利益をもたらす」という判断によるものと考えられるので、漁場を利用する釣り人それぞれのマナーや行いに未来がかかっていると言えるのではないでしょうか。
スモールマウスバス分布の歴史
「スモールマウスバスが居る場所」とされる野尻湖や桧原湖ですが、本来はこの水域にもスモールマウスバスやラージマウスバスは生息していません。
この水域では、1990年代にスモールマウスバスの生息が確認されました。その後、各地でスモールマウスの分布が確認され、1990年代後半には全国での分布が問題に。
ラージマウスより歴史が浅いものの、スモールマウスが全国へ分布する過程において、野尻湖や桧原湖にも定着したと考えられます。
スモールマウスの全国分布が周知の事実である以上、釣り人だけが「居ないことになっている」と言い続けるのは不自然に思えますよね。
特に、大半の一般アングラーまでもが、周知の事実に対して目を背けている状況は、健全ではなく、問題の本質を遠ざけていると感じます。
ゲリラ放流(密放流)の禁止
釣り人にとって、外来法が意味することは「ゲリラ放流(密放流)」を厳罰化で法規制した事です。つまり、釣った魚を別の地域に放つことで釣り場を増やそうとする、極めて利己的な行いに対するNG。
一定以上の人が集まる場合、たとえ一部であっても、残念ながらルールやマナーを守らない人が出てきます。
バスフィッシングの市場規模は大きく、どれだけ注意喚起を徹底していても、「釣り場が増えればいいだろう」という考え方が生まれ、魚を他地域にゲリラ放流する事は想像に難くありません。
こうした一部のルール違反を完全に押さえ込み、今後も発生させない枠組みを自分たちで構築できない以上、法規制はやむを得ないと言えます。
ブラックバスの分布理由に「大雨で流れ出た」「種苗によって全国に広まった」といった主張もありますが、ゲリラ放流による分布が一切無いと言い切れない限り、法規制が必要なのが現状。外来法は、魚種の良し悪しはもとより、むしろ人の違反行為を抑制している法律と考えることができます。
「釣りは違法じゃないけど、●●をやりそうな人がいるから、それはやっちゃダメ!」というルール。
補足すると、世界的に侵略的外来種として知られるコイは、現時点で外来法の指定種ではありません。
日本では水質汚染の調査として活用されてきた歴史もあり、放流による漁場などへの経済的損害が、今はまだ規制に値するほどではない、という判断なのだと思います。
同様に、外来種としての悪影響が懸念されながらも、実質的な規制が難しいとされるミドリガメなども指定種ではありません。
ブラックバスについては、「釣り人がルールを守れば効果がある」つまり「ルールを守って釣りを楽しんでほしい」と、法律が提示しているとも考えれます。
「ブラックバスより、もっと他に悪影響なものがある」といった外来法への反論は、釣り人側からの一方的な言い分なのかもしれません。
リリース禁止の歴史
ブラックバスのリリース禁止の歴史は古く、まだ全国に分布していなかった1970年代には無許可放流が禁止されています。
その後、80年代には日本でもバスプロトーナメントなどが開催されるようになり、業界的にはゲリラ放流を厳しく規制し、観光資源などとしての確立を尽力されていました。
ですが、ラージマウスバスとスモールマウスバスの全国分布は止まらず、法規制に至ったのが現状です。
無秩序な過去の産物とはいえ、釣りを楽しむ者にとっては、かけがえ無い資源となったブラックバス。これから先の未来、定められたルールとマナーを守って楽しんでいきたいですね。
業界・メディアのタブー?
スモールマウスバスは、業界やメディアのタブーとされています。
業界側としては、ゲリラ放流を規制してきた姿勢なので、後発で全国に広まったスモールマウスバスを商的に積極活用するのは難しいところです。
ただ、ラージマウスバスについても、業界発足以後に拡大分布を続けていた問題は同様なので、一概にスモールだけをタブー視している訳では無いかもしれません。
バスブームのような熱狂的な広がりが再び起これば、一定数の違反者が生まれないとも言い切れない今の現状、ラージマウスバスを含めて、業界側も必要以上の市場拡大はできないのではないでしょうか。
つまり、スモールマウスについては、今後どれだけ認識が広まっても、メディアや業界で大々的に取り扱うことは無さそうです。
次に、日本バスプロ協会 山下茂会長からのメッセージを引用します。齟齬があってはいけないので、全文を記載しています。
スモールマウスバスの繁殖は、アユ・ヤマメなどの在来魚種に大きな被害を及ぼす危険性を秘めています。
JB・NBC会員諸氏は、魚類の生態系のことをどのようにお考えでしょうか。限られた水域にしか生息しなかったブラックバスは、釣り愛好家の無秩序放流を中心に全国の湖沼に分布するようになりました。
私たちはバスフィッシング愛好家の組織なので、私たちにとればゲームフィッシュとしてのバスの価値はとても高く、かけがえのない魚です。だからといってむやみに放流するというのは、これはあまりにも利己的な考えです。
現実は、漁業権に基づく漁場計画や増殖計画にない放流は、ほとんどの都道府県条例・漁業調整規則で禁止されています。
ただ、ブラックバスが繁殖すれば有益だと地元が認め、漁業権対象魚に指定されたり、その指定を希望する漁協があれば、JB・NBCは全面的に応援していく所存です。漁業権対象魚を放流することによる生態系の乱れに関しては、これはもう賛否両論ではないでしょうか。日本の内水面漁場を見てみると、生態系よりむしろ害魚か有益魚かということが重要視されているケースが少なくないからです。
今になって無秩序放流の話を持ち出したのは、にわかにスモールマウスバスの繁殖が問題になってきたからです。この魚は低水温に強く、流水にも適応するといわれ、ブラックバス(ラージマウスバス)よりも繁殖が警戒されています。NBCチャプターからの報告では、河川での繁殖は確認されていませんが、長野県、東北地方の湖沼に分布するようになりました。私のところにもスモールマウスバスもブラックバスの一種として河口湖に放流することはできないだろうか…という提案がありました。確かに河口湖のことだけを考えればいいかもしれませんが、そこから他の河川に生息域が広がることが懸念され、山梨県農務部農業経済課の話では、スモールマウスバスとブラックバスはまったく別種であるとのことです。もし、河川に繁殖した場合、最も心配されるのがアユやヤマメなど在来種への被害で、とても大きな危険性を秘めています。
これらの魚種を対象とする釣りの愛好家はとても多く、JB・NBCスポンサーの中にもこれらのジャンルの釣りに力を注がれている企業は少なくありません。JB・NBCは今後、条例を違反するような放流を行った者は厳しく処分します。また、放流されたという情報や、河川での繁殖情況が分かれば、私のところまでご報告いただきたく、お願い致します。
yamashita1994年8月
引用:NBCニュース
山下会長のコメントは、スモールマウスバスに関して明示されている数少ない業界メッセージだと思います。
業界として尽力されてきた事、トップとして感じる危機感や責任感などが非常によく伝わりますよね。
また、スモールマウスバスは、業界スポンサーである企業(渓流釣りなど、他ジャンルの釣りに携わる企業)にとってデメリットである事も言及されています。
この2年後、山下茂会長は再び注意喚起をコメントされています。
そこには、スモールマウスだけではなく、ラージマウスのゲリラ放流についても禁止の再徹底を呼びかけるなど、バスブームの裏で深刻化していた問題について記されていました。
ゲリラ放流は絶対に容認してはいけない禁止事項です。
川スモールの釣果をSNSにアップすると、バス釣り全体の規制が厳しくなる?
「川スモールの釣果をSNSでアップすると、バス釣りの規制がもっと厳しくなる」という意見もあります。
これは、現在進行形でスモールマウスバスが拡大分布している印象が強まり、より規制が厳しくなることを懸念されているのではないでしょうか。
ですが、外来法が施行される前、2000年初期にはスモールマウスバスの全国分布が確認されており、そうした背景を踏まえて法規制による厳罰化が定められています。
すでに全国分布が周知である以上、コソコソと隠す方がかえって問題を深刻化するかもしれません。
スモールマウスが認められている野尻湖でも、その許容は期間限定で暫定的なものです。
むしろ、自分たちが現状の資源で釣りを楽しみ、そのために必要なルールを再認識する必要があるのではないでしょうか。
琴川ダムの釣り禁止化
2020年4月、山梨県の琴川ダムでスモールマウスバスの釣りが禁止されました。
元々、スモールマウスバスのリリースが禁止されていた水域ですが、「釣り禁止エリアで釣りをするバサーの増加」「リリースの目撃例」など、一部の違反者の行為が目に余り、釣り禁止の措置にまで至りました。
これは、スモールマウスバスに限らない出来事で、ラージマウスが生息する他の水域でも問題が起これば、同様の措置は十分考えられます。
ブラックバスを観光資源化している池原や野尻湖であっても、その例外ではありません。
「スモールマウスはタブー、ラージマウスは既成事実化されている」は、釣り人の中でしか通用しない理屈のように思えます。
スモールマウスバスは認められていない魚?
スモールマウスバスは認められていない魚だから違法、と考える人もいらっしゃいますよね。
だからと言って、ラージマウスバスが全国的に認められている訳でもありません。
漁業権としてラージマウスバスが認められているのは、神奈川県の芦ノ湖、山梨県の河口湖、山中湖、西湖の4湖のみ。
観光資源として活用されていたり、管理釣り場として許可を得ている場合もありますが、いずれも魚種そのものが全国的に認められているとは言えないようです。
河川の自由利用など、禁止されてはいない魚を釣りの対象としているのが、ラージマウスとスモールマウスを含め、あらゆる魚種で共通する位置付けだと思います。
日本の釣りは、キャンプやお花見やスポーツ同様に、自由利用で許容されている珍しいケースです。
ですが、海外のように全ての釣りにライセンスを設けたり、釣り具から環境費を徴収するなどして、必要な漁場への駆除・環境維持費用とするといった施策も、検討して然るべきなのかもしれません。
▲海外旅行先で釣りをするために取得したライセンス
まとめ | どうすればいい?
さまざまな経緯を経て、今自分たちはバスフィッシングを楽しんでいます。レクリエーションとして、趣味として、それが自分の人生を豊かにするものとしてかけがえの無いものになっているでしょう。
バスフィッシングが自分にとって必要なものであれば、ルールやマナーを守って存分に楽しむべきだと考えます。
釣果をSNSなどでアップして、気持ちのいい1日を締めくくるのも大切なこと。
ただ、一部の水域を除き、積極的にバスフィッシングを推奨している場所ばかりではありません。
観光資源化している地域以外では、具体的な場所や詳細なポイントが分かる情報はオープンにしない方が良さそうです。
なぜなら、オープンにされた情報に不特定多数の人が集まることで、一部でもルールやマナーを守らない人が出てこないとも限らず、それを自分たちで制限する術が無いため。
(釣り禁止での釣果はそれ以前の問題です)
これは、スモールマウスだけに限定される話ではなく、ラージマウスバスや他の魚種でも同じことではないでしょうか。
最近は、水域の美化運動なども盛んで、ポジティブな釣り人の活躍も目立ってきています。
釣り人どうしで不要な非難をするのではなく、ゲリラ放流の禁止を徹底する事に加え、こうした活動などで、自分たちの楽しいバスフィシグを活性化していければ最高ですよね。